Masuk「優兎くん。体は平気?」 「うん。大丈夫。金山さんの薬って本当に怖いね…」 「ねー…」 優兎くんと二人車に乗って、夜の市内を走っていた。 「お嬢様。このまま向かっても宜しいですか?」 「うん。大丈夫だよ。優兎くんをこんな目に合わせた人間を潰さないとね」 ニッコリと笑顔で答える私の背後はきっと真っ黒だと思う。 真珠さんが何故か嬉しそうに笑っていたけれど、理由は分からない。 今向かってるのは優兎くんを狙った優兎くんの叔父の家だ。 「現状、優兎くんの従兄弟達は皆金山さんに捕獲されたけど、オリビアちゃんとその叔父だけは逃げ遂せた。この情報に間違いはない?真珠さん」 「はい。確認済みです」 「そう。じゃあ、しっかりバッチリ私の手でオリビアちゃんに仕返し出来るね…」 「美鈴ちゃん…。その黒さ、僕は嫌いじゃないけど、周りに人がいる時はしないようにね」 「ふみ?」 「小首傾げて誤魔化すのはずるいから」 優兎くん…動じなくなっちゃったなぁ…。 強くなっちゃって、ずっと成長を見守っていた私としては嬉しいやら悲しいやら。 生暖かい目で見守っちゃっても仕方ないよね、うん。 さ、てと。 目的地につくまでもう少し時間があるだろうから、一応華菜ちゃんに連絡も取っておこうかな。 私達が乗っている車の後ろを追随している車に華菜ちゃんと逢坂くんが乗っている。 運転手として銅本さん。そして、もう一人。 くるっと私は振り返ると、助手席に座る華菜ちゃんのお母さんが私に向かって手を振ってくれた。 バッチリドレスを着こんでいるその姿はとても綺麗で思わず微笑んでしまう。 「…良く、一緒に行くって言ってくれたよね。華菜ちゃんのお母様」 「自分の事、だからだろうね。本当の所を知りたいってのと、華菜ちゃんを守りたいってのと…母親だもの。色々私達の解らない感情があるんじゃないかな?」 「…そうかもしれないね」 「娘である私がママのこと未だに理解出来ない時あるし」 「…美鈴ちゃんの所の場合だとちょっと特殊が過ぎるから」 二人仲良く遠い目をする。 っと、忘れる所だった。華菜ちゃんに連絡、連絡ーっと。 ノートパソコンを取りだして、直ぐに起動する。 と同時にスマホを取りだして華菜ちゃんに電話。 コール音を聞く事なく電話は直ぐに繋がった。 『はいはーい。美鈴ちゃ
花崎が全力で美鈴の部屋に行くのをゆっくりと追い掛け遅れて佳織母さんの部屋に入ると。 「美鈴ちゃんっ!無事で良かったぁっ!」 「いや、私は無事だよ?今無事じゃないのは、華菜ちゃんの下にいる、あばらが折れてる優兎くんかな」 「………うぐぐ…」 「よいしょっ…優兎くん、生きてる?」 「な、んとか…」 ベッドの上に乗り上げていた花崎を美鈴が降ろして、優兎の無事を確認して、やっと俺に気付く。 「鴇お兄ちゃん。華菜ちゃんがここにいるって事は」 「問題ない。全て無事に助け出した」 「そっか。良かったぁ。じゃあ後は本当にあの馬鹿共を潰すだけだねっ!」 ぐっと俺の方へ親指を上げて見せる美鈴に静かに頷いた。 「金山と親父には財閥経営に関する事は全て委任してある。それから」 「待って、鴇兄。僕にも分かる様に説明して貰える?」 「…解ってる。だがちょっと待て。その前に美鈴に説明が必要だ」 財閥運営に関する要点だけを美鈴に言うと、美鈴は了解と言って部屋を出て行った。 「美鈴ちゃんっ、私も行くっ」 そう言って出て行く花崎を見送ってから俺はもう一度優兎と向き合った。 「さて、何処から説明するか。まずは花崎の所からか?」 優兎が頷くのを確認して、俺は記憶を順番に辿る様に話を始めた。美鈴と二人優兎を連れ戻した後。 白鳥家の居間で俺と美鈴は情報のすり合わせと作戦会議をしていた。 「鴇お兄ちゃん。優兎は私がどうにかするから、華菜ちゃんの方を、お願い」 「居場所は?」 「上手く動いていれば、ママの仕事場。動けていないようであれば、コンツェルンの日本支社」 俺の予想と一致している。 さて、だとしたら…。 美鈴に優兎を託して、俺は家を出て車に乗りこんだ。 まずは花崎の家に行ってみるべきか。 車を花崎の家へと走らせる。だがそこは臨時休業の札が下がっており人の気配はなかった。 佳織母さんの仕事場…美鈴と佳織母さんが昔一緒に暮らしていた家に向かってみるか。 直ぐに車に乗りこみ、最短ルートを頭の中に組み立てて向かった。 マンションに辿り着き、佳織母さんに渡されていた鍵を使い中へと入る。 そこで目に入ったのは…。倒れている花崎の父親の姿だった。「大丈夫ですかっ!?」 叫び駆け寄って。 (下手に揺らしても駄目だな。まずは救急車の手配を) 携帯電話
夢を…見ていた。 僕の知らない女の子を僕はずっと見守っていた。 見守っていた、と言うと聞こえがいいかもしれない。 実際は何も出来なく見てるしか出来ないんだ。 僕の夢なのに何も出来ないなんて。 本当不思議な夢だ。 『……西園寺さん。はい、これ』 『あ、ありがとう』 『………』 とても美人な人なんだけど…クラスに馴染めてない、と言うか…いじめられてる、みたいだ。 プリントも、はいこれと言って手渡すふりをしてる癖に、彼女が受け取る前に床に投げられた。 あぁ…本当気分が悪い。 彼女はゆっくりとしゃがみ込んでプリントを拾い席に着いた。 『……』 彼女は何も言わないけれど、あのプリント、半分印刷されていない。ミスプリってやつ。 しれっとクラスメイトは彼女にそれを渡して、自分の席に戻って行く。 で、仲のいいグループに戻って楽しそうに会話しているが、正直気に食わない。 だって、自分はちゃんと印刷されたプリントを持っている。 日直のその子は教師に言って取り替えて貰う事をしなければならない立場にある。 だけどそれをせずに印刷されていないものを態と彼女に渡すのだ。 いや、まぁ、教師がまずミスプリを作るなって話だけども、それでもどうしようもない時だってある。 それに彼女はそういうものの的になりやすい。 いじめの的、に。 教室移動の説明がなかったり、体育の時わざとボールが行かないようにされたり、逆に必要以上に行くようにしたり。 こう言う地味な行動って教師が気付き辛いし、例え気付いたとしてもいじめがいじめだと認識され辛いんだよね。 いじめられてる方も小さい事が繰り返されると普通の暴力的ないじめよりも腹が立つし。 でも僕が腹を立てて見ていると言うのに、彼女の表情を見ると、無、だった。 気にとめてないんだろうか?と思いがちだけど…。 鞄にプリントを詰めて、彼女は颯爽と教室を出る。 クラスメイトはその姿を気にとめる事はない。 僕は彼女にとりついている、みたいな感じなのかな? とにかく彼女から離れる事が出来ないんだ。 彼女は真っ直ぐ家へと帰る。 寄り道などは全くしない。 帰り道の彼女の背後には、彼女自身は気付いていないかもしれないけど、尾行している男が三人。 いや、ヤバいよね。 普通にストーカーじゃん? 彼女は家の中に入るや否
組み立て終わった。 終わったんだけど…。 正直これをどう受け取って良いか迷ってる。 組み立て終わった後に現れた写真は、真っ黒だった。 何か映っている訳でもなくただの黒。 でも写真だと思わせる枠はあるんだよね。 さて、これはどう受け取ったらいいのかな? もう記憶はないと取るべきか、それとも…『誰にも知られたくない』記憶だと受け取るべきか。と、思っていたら、黒い靄に包まれた。光じゃなくて靄。 これは完全に何かあるなぁと私は遠い目をしつつ、素直にその靄に包まれる事にした。目を開いて入った視界は、床? え?何で? 私倒れてるの? 倒れた人に入ったの? どゆこと? 取りあえず起き上がってみる? 物は試しと体を起こそうとしたら、急に視界が開けた。 さっきまでは床のドアップだったのに今度は部屋の全体図が目に入って…何ココ、ホテルとか旅館の客室? 何が何だかわからなくて自分の手を動かして、目前まで上げて確認。…透けてる。 成程。幽体、みたいなものかー。 だから、さっきまで床にめり込んでて、いざ力を込めたら今度は天井にめり込んだって訳だね。 自分の状態を理解した所で…ここはどこなの? キョロキョロと辺りを見回しても誰かがいる訳じゃない。 折角の幽体だしうろちょろしてみようかな。 ふわふわと移動して、ドアを擦り抜ける。 誰もいないって事は? 最初床にめりこんでたって事もあるし、もしかして下? 床板を擦り抜けてセメントもすり抜けて、ポンッと顔を出したその下に。 優兎くんがいた。 身に合わないオーダーメイドのスーツを着て、胡散臭い笑顔でまるで自分程の紳士はいないとでも言うようなナルシストな男。 今回の優兎の事件の元凶だ。 『どうやら君は、力で抑えた所で逃げ出せてしまうようだ。ならば、まずは君の心を折る事にしようか』 『……何を』 優兎くんの前にスマホを突き付ける。 ここからじゃ解らない。けどそこに映っている人間が誰なのかは知っている。 苛立ちが胸に溢れるけど…我慢。 私は、そのまま展開を見続ける。 『彼女の身柄は預かっている。…【彼女】の娘とは随分仲が良かったな?』 『…どういう事?』 『その言葉の通りだ』 『…何が目的?コンツェルン?それともお金?それとも地位?』 『全てだ。その全てを私に寄越せ』 …
「ここが、ここっ!うっしゃーっ!出来たーっ!!」 ついガッツポーズを決め込んでしまったよ。 だって、あまりにも長い道のりだったんだものっ! でも完成させたよっ! で?これはいつの写真? 流れから考えるに小学校高学年、もしくは中学辺りだと思うんだけど…。 と思って写真を見ると、そこに映っていたのは、高校の卒業時の写真? これ多分卒業パーティの時だよね? そう言えばこの写真ってどう言う意味なんだろうね。 その写真の場所に行くかと思えば、そうでもないし。その前後って事なのかな? でもそっから時間が過ぎたりしてるよね? …もしかして逆なのかな? 私は今パズルを完成させて、完成された写真を見て、光に取りこまれて、優兎くんの記憶へと移動させられる。 って言う流れになってると思ってたんだけど、実はそれが逆で。 最初に光に取りこまれ優兎くんの記憶へと移動させられる。そこでちゃんと整えられた記憶から邪魔な異分子である私が取り除かれる。整えられた記憶がパズルのピースとなっていて、そのパズルを組み立てて完成させる事によって、完全に記憶が正しい形に固定さる。でもってそのパズルにまた新しい写真、要するに歪んだ記憶が現れる。 って事だったりして? 自分で仮説立てて置きながら何だけど、ややこしいな。 そいでもって、あれが来ないな。光。 いつもは勝手にベカーって光る筈なのに。 全く来ない。 …もしかして、パズル間違ってる? 組み立てたパズルをマジマジと眺める。 写真が浮かび上がったから出来たと思ったんだけど…どこか間違ってるって事? 写真浮き出たの間違ってたって事あるの……んんっ!? 組み立てたパズルの横に気付きました。一つだけ使ってないパズルのピースがあるって事を。 えー?でも、私の手元のパズルは綺麗に埋めたんだよー? なのにピースが余るって事あるー? と言う事は…どれかとピースを入れ替える必要がある訳だね。 どこのピースだろう…。形は穴が一つと凸が三つ。 同じ形のピースは多々あれど、これは一体何処のピースなんだろう? んー…? いくつか入れ替えてみたけれど、特に変化はない。 って言うかこのピースは何が書かれてるの? 写真で言うとどの部分何だろう? マジマジと見てみるものの、解るのは…肌色ってだけ。 あ、でも待って?この肌色
ここが、左下でこれが…真ん中っ! 終わったー…。 今回ピース数が多くて参った参った。 でもまぁ、私にかかればこんなもんよっ!どやっ! …誰もいない所でどやってもなぁ…。 さて、組み立ててる最中から理解はしてたけど、これ優兎くんと美智恵さんが何か乗りものに座ってる姿…窓の形から想像するに飛行機に乗ってる所かな。 どこに向かってるのかは解らないけど、優兎くんが私と出会った時と同じくらいに成長してるから…って言うか、待って? じー…。 んんんー? やっぱりこの格好記憶にあるなぁ…? もしかして、私達が会う前の写真かなぁ? 日本に向かってる最中なんじゃないかなぁ?なんて考えている最中に、光が私を包む。今度は一体誰になるんですかー? と思いながらも、光景が変わって…。「お母様っ!お母様ぁっ!」 優兎くんの声が聞こえて意識がハッキリした。 泣いている優兎くんを見て理解する。 あぁ、とうとう優兎くんのお母様が殺されたんだ。 ……あー…ほんっと腹立つわー…。 あの馬鹿共の所為で優兎くんはしなくていい苦労を、感じなくていい恐怖を、沢山沢山味わって来たんだから。 戻ったら真っ先に潰そう。うん。 改めてそう決意した。 意識がハッキリして来たのはいいんだけど、視界がクリアにならない。 声だけしか聞こえない。 優兎くんがお母様を想って嘆いている声。それから、 「優兎。お母様はもう…戻っては来ないんだ。いつまでも嘆いてはいけないよ」 ……はぁん? ちょいちょいちょい。 誰がどの口で言ってるの? 「お父サマ…」 「さぁ、優兎。行こう」 「は、い…」 んんんんんんんんっ!? 優兎くんの口調に違和感があるぞーっ!? あ、でも待って?…そうか。思い返してみたら、優兎くんと会った当時。 優兎くんは父親の言動に惑わされやすかった。ここで何かされてたのか。 だよね。良く考えたら、幼い時の優兎くんはルナさんのおかげで父親への疑惑を教えられていた筈だ。 でも会った当時の優兎くんは、色々な思考の狭間に揺れていた。 成程。全部あの父親達の所為だったって訳だ。 アイツラは、本当に…。 思考の中でイライラをつのらせていると、視界がクリアになってきた。 で、今度は私誰になるんだろう? って言うか、もしかしたら今度こそ…。「『はい、優
それから、襲撃のある8日まで。私は、一日一回はあえて外出し、買い物をするようにした。と言うのも、お兄ちゃん達が、遭遇すると言う形を作りたいと言ったからだ。ゲームにより近づける為なんだって。私としてはお兄ちゃん達だけ危険な目に合わせるつもりは毛頭なかったから、即頷いた。むしろ一日一回で良いのかと聞き返してしまった位だ。けど余計なことをしてもまたお兄ちゃん達の計画を崩すだけだよねとちゃんと思い止まった。買い物をして、華菜ちゃんの家に帰って、華菜ちゃんのご家族の代わりにご飯を作って、パソコンを借りて一日分の仕事をして。これを数日繰り返した。…私、本当にこれでいいのかなぁ…?ちょっと不安に
「…美鈴?」声が聞こえて目を開くと、ママのドアップ。「美鈴。何をぼんやりしているの?早くその本を持って廊下に出てみなさい」そしてまたこのセリフ。私の手にはセーブの本。流石に二度も同じ事があれば、夢でも幻でもないって理解出来る。いや、元々夢の可能性は大分低かったんだけどね。そしてもう一つ、夢を否定するに思い至る理由がある。ここに、いつもママのドアップがあるこの時に戻る理由。こんな事現実的じゃないと思って、つい思考から排除してたんだけど…。でも…もう、そうとしか考えられない。私はやはり『手に持っていた』本を開いた。そこに書いてある文字は、私の文字。『ハートの意味が解らない。
私の視界は真っ暗闇の中。 ふっ。私を舐めないで貰いたいわねっ。 毎度毎度この真っ暗闇を見ていたら、もう分かるもんねっ! ズバリ、私は気を失っているっ!どやぁっ! ……。 ………。 ……………しくしくしく。全くもって威張れたことじゃないのよぅ…しくしくしく。 何で私はまた意識を失ってるのー…。 えっと…、私は何でこうなってるんだっけ?気を失う前は確か…。 確か私は旭と一緒に買い物した帰りに、旭に扮した表門の人に刺されてー…はて? そこから記憶がないと言う事は、私はあそこで気を失ったって事だよね? んで、今現在意識がない、と。そう言う事だよね? でも
※ このお話は本編である『乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも私、男性恐怖症なんですけど…』の三十話から続くお話です。まだ本編をお読みで無い方はまずは本編からお楽しみください。「姫。この鎖主体のデザインと、薔薇主体のデザイン、どっちが可愛いと思う?」「んー…、私としては薔薇の方が可愛いと思うんだけどー…、遠目から見てどっちが可愛いと思う?大地お兄ちゃん」「鎖デザインのネックレスと、薔薇デザインのブレスレットー。成程。姫ちゃんが一番可愛いー」「俺もそう思う。姫さんが一番可愛い」「確かに。姫が一番可愛いな」「ちょ、ちょっと三人共っ、デザインの話でしょーっ。私は関係ないでしょーっ。